突然人が倒れたとき、「AEDを使わなければ」と分かっていても、どこに電極パッドを貼ればよいのか迷ってしまう方は少なくありません。特に初めてAEDを使う場面では、正しい位置や貼り方に不安を感じることもあるでしょう。
当記事では、AEDの電極パッドを貼る正しい位置や貼り方、使用時の注意点、実際の救急救命の手順を分かりやすく解説します。AEDに関する理解を深めることで、緊急時に落ち着いてAEDを使い、自信をもって命をつなぐ行動が取れるでしょう。
1.AEDの電極パッドを貼る位置
AED(自動体外式除細動器)の電極パッドの貼付位置は、右鎖骨下(鎖骨の下で胸骨の右)と、左わき腹(わきの下から約5~8cm下、乳頭の斜め下)の2か所です。未就学児に使用する際は、未就学児用の電極パッドがあれば用いて、1枚を胸の中央、もう1枚を背中側(心臓を挟む位置)に貼ります。この位置に貼ることで、電流が心臓を通過し、心停止状態から心室細動などの異常な心拍を正常なリズムへ戻す効果が得られます。
AEDの多くは二相性で、電流は一方向だけでなく、2枚の電極パッドの間を一往復して流れます。そのため、右・左のどちらを先に貼っても問題ありませんが、2枚の電極パッドが心臓をしっかり挟む位置関係にすることが大切です。
1-1.電極パッドの正しい貼り方
AEDの電極パッドは、素肌に直接貼り付けることが原則です。衣服を脱がせるのが難しい場合は、ためらわずにハサミなどで衣服を切り、胸の肌をしっかり露出させます。電極パッドの袋や本体に貼る位置がイラストで示されているため、指示に従って正確な場所に貼りましょう。貼り付ける際は、電極パッドと肌の間に空気が入らないよう、しっかり密着させます。
女性の場合、ブラジャーなどの下着の上に電極パッドを貼ってはなりません。下着が邪魔になる場合は、切るかずらして電極パッドを貼り付けます。その際は毛布や上着で覆うなど、人目に触れないような配慮を行いましょう。
2.AEDの電極パッドを貼るときの注意点
AEDの電極パッドを貼るときは、正しい位置に貼るだけでなく、状況に応じた配慮や確認も必要となります。濡れた肌や貼り薬、ペースメーカー、体毛などの状態によっては、電流が正しく流れないことがあります。ここからは、電極パッドの貼り付け時に注意すべきポイントを詳しく解説します。
2-1.濡れている場合は先に水分を拭きとる
傷病者の胸が汗や水泳、雨などで濡れている場合、そのまま電極パッドを貼ると、電気が体表の水を伝って流れてしまい、AEDの効果が十分に発揮されません。必ず乾いた布やタオルで胸の水分を拭き取ってから、電極パッドを貼り付けましょう。レスキューセットに含まれている布やハンカチなど、身近なもので代用しても問題ありません。
地面や背中が濡れていても感電の心配はないため、胸の部分だけをしっかり乾かし、電極パッドが水に触れないように気を付けることで、AEDの使用が可能です。雨の日などで全身が濡れている場合は、衣服の中までびしょ濡れでなければ、胸部を重点的に拭き取り、速やかにAEDを使用します。
2-2.貼り薬は剥がしてから電極パッドを貼る
電極パッドを貼る位置に、湿布薬や鎮痛剤、ホルモン剤、降圧剤などの貼り薬がある場合は、必ず剥がしてから電極パッドを貼り付けます。心疾患治療に使われるニトログリセリンテープやフランドルテープなどの貼付薬にも注意が必要です。貼り薬の上から電極パッドを貼ると、電気ショックの効果が弱まったり、薬剤成分によって火傷を起こしたりする危険性があります。
貼り薬を剥がした後は、皮膚に残った薬剤をタオルや布で軽く拭き取り、素肌の状態にしてから電極パッドを貼り付けましょう。AEDに付属するレスキューセットに拭き取り用の布が入っていないか確認し、なければ手持ちの清潔な布などを使用してください。
2-3.ペースメーカーの位置は避ける
傷病者がペースメーカーやICD(植込み型除細動器)を埋め込んでいる場合でも、医療機器の位置を避けて電極パッドを貼れば、AEDを使用できます。ペースメーカーの真上に電極パッドを貼ると、AEDの電気ショックの効果が弱まったり、機器に影響を与えたりする恐れがあるためです。
これらの医療機器は、胸の皮膚の下に埋め込まれており、硬いこぶのような出っ張りとして確認できます。通常は左鎖骨の下あたりにあることが多く、貼り付け位置に機器の出っ張りがある場合は、電極パッドを少しずらして貼りましょう。たとえば、左胸にペースメーカーがある場合は、右前胸部と左側腹部に電極パッドを貼り、心臓を挟むように配置することで除細動が行えます。
2-4.体毛が濃い場合は剃ったところに貼り付ける
電極パッドは、皮膚にしっかり密着させることで電流が正しく流れ、除細動の効果を発揮します。胸毛などの体毛が濃い場合、そのまま貼り付けると電極パッドと肌の間にすき間ができ、電気がうまく伝わらず、火傷やスパークの原因になる恐れがあります。そのため、濃い体毛が貼り付け位置にあるときは、毛を剃ってから電極パッドを貼るようにしましょう。
多くのAEDにはレスキューセットとして使い捨てカミソリ(もしくは脱毛テープ)が付属しているため、必要に応じて取り出し、貼付部位だけを簡単に剃れば十分です。カミソリがない場合は、毛の少ない部分に位置を少しずらして電極パッドを貼るのも1つの方法です。日本では除毛が必要なほど体毛が濃いケースは少ないものの、電極パッドを密着させることを優先し、適切に処置することを心がけましょう。
3.AEDによる救急救命の手順
AEDを使った救命処置は、落ち着いて手順に沿って行うことが大切です。電源を入れると音声ガイダンスが流れ、操作方法を案内してくれるので、慌てず指示に従いましょう。以下では、AED使用手順を含む救急救命の手順について説明します。
3-1.傷病者のそばにAEDを置いて電源を入れる
AEDが到着したら、傷病者の頭の横など操作しやすい位置に置き、ただちに電源を入れます。機種によってはフタを開けると自動で電源が入るタイプもあります。電源が入ると音声ガイダンスが流れるため、その指示に従って落ち着いて操作しましょう。
3-2.電極パッドを貼ってガイダンスに従う
電源を入れたら、傷病者の胸をはだけて電極パッドを貼ります。電極パッドのイラスト表示を参考に、しわや空気が入らないよう密着させて貼りましょう。電極パッドを貼り付けると心電図の解析に移ります。このとき、解析やショック準備の妨げにならないよう、傷病者には触れないよう注意してください。
3-3.電気ショックを与える
AEDが自動解析を行い、「ショックが必要です」と指示があった場合は、周囲の安全を最優先に行動します。「みんな離れてください」と声をかけ、誰も傷病者に触れていないことを確認してから電気ショックボタンを押しましょう。
なお、「ショックは不要です」と音声ガイドが流れた場合は、ただちに胸骨圧迫を再開する必要があります。このとき、電気ショックボタンを押しても電気は流れません。
3-4.胸骨圧迫を続ける
電気ショック後は、すぐに胸骨圧迫(心臓マッサージ)を再開します。胸の真ん中を、成人では約5cm沈む深さで1分間に約100~120回のテンポで強く押します。人工呼吸は、訓練を受けた人のみが行えばよいとされています。
出典:公益財団法人日本心臓財団「心臓マッサージは(胸骨圧迫)どのようにするのですか?」
救助者が複数人いる場合は、交代しながら胸骨圧迫を絶え間なく続ける必要があります。AEDが再び解析を始め、電気ショックが必要だというメッセージがあれば離れるなど、指示に従い救急隊到着まで処置を継続しましょう。
まとめ
AEDを使用する際に重要なのは、電極パッドを正しい位置に貼ることです。右鎖骨下と左わき腹に貼ることで、電流が心臓を通り、心室細動を止める効果が期待できます。その際は、胸をしっかり露出させ、衣服や下着、貼り薬、濡れた皮膚や体毛などが妨げにならないように環境を整えることが求められます。
また、電源を入れた後は音声ガイダンスに従い、落ち着いて操作します。救命の現場では1分1秒が命を左右します。万が一の際はためらわずにAEDを使用し、電気ショック後も胸骨圧迫を続けましょう。


