職場や施設の安全対策を進める上で、「AED(自動体外式除細動器)の設置義務があるのか」「自社は設置すべき対象に当たるのか」と疑問を抱いている方もいるでしょう。法律上の義務はないものの、厚生労働省は多数の人が利用する事業所や高齢者が多い施設、公共性の高い場所などで積極的な設置を推奨しており、企業として責任を持って安全管理体制を整えることが求められています。
当記事では、AEDの設置義務の有無、設置すべき理由、効果的な配置基準、施設内での具体的な配置ポイント、設置後の注意点について分かりやすく解説します。AEDの導入により職場や施設の安全性を高め、リスク管理を強化しましょう。
1.AEDに設置義務はある?
AEDの設置は全国的に義務化されているわけではなく、法律で一律に設置を求める規定はありません。一方で、横浜市のように自治体独自の条例により、一定規模以上の建物やスポーツ施設、駅舎などにAEDを整備することを義務としている地域もあります。
背景には、心疾患による死亡者数が多いという現状があります。厚生労働省の調査によると、心疾患は悪性新生物に次ぐ死亡原因の第2位です。こうした状況から、企業や施設では義務の有無にかかわらずAEDを導入し、救命体制を整えることが求められています。
1-1.安全配慮義務とAEDの関係
企業や施設には、従業員や利用者が心身の安全を確保しながら働き、利用できる環境を整える「安全配慮義務」があります。これは労働契約法第5条に基づくもので、生命や身体を守るために必要な配慮を行うことが使用者に求められています。
(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする
引用:e-Gov法令検索「労働契約法」引用日2025/12/3
具体的には、職場の危険防止策を講じたり、施設の防火設備を整えたりすることが該当し、近年では人が多く集まる場所でAEDを備えることも安全配慮の一環として認識されつつあります。AED設置を義務づける法律はないものの、社会全体で設置が広がってきた背景には、従業員や利用者の健康を損なわないように配慮する必要性が高まっていることがあります。
1-2.AEDの設置が推奨されている場所
厚生労働省は心停止の発生可能性や救急隊の到着時間を踏まえ、一定の環境下にある施設への配置を推奨しています。人が多く集まる、あるいは救急対応に時間を要する場所では迅速な一次救命処置が求められるためです。具体的には下記のような施設が挙げられています。
- 駅・空港・長距離バスターミナル・高速道路サービスエリア
- 旅客機、長距離列車・長距離旅客船などの長距離輸送機関
- スポーツジムやスポーツ関連施設
- デパート・スーパーマーケットなどの大規模商業施設や多数集客施設
- 市役所、公民館、消防署などの公共施設
- 高齢者向け介護施設・福祉施設
- 幼稚園から大学までの学校
- 会社、工場、作業場
- 遊興施設
- 大規模ホテル・コンベンションセンター
- 救急隊到着までに時間を要する島しょ部や山間部
2.AEDを設置する重要性
職場にAEDを設置すべき最大の理由は、突然起こる心停止への対応時間が生存率を大きく左右するためです。心停止の多くは心室細動が原因で、放置すれば約1分ごとに生存率が約7~10%低下するとされています。この心室細動を取り除く唯一の有効な手段がAEDなどによる電気ショックです。
実際に、一般市民がAED使用により除細動を行った場合、1か月後の生存率は約54.2%に達しています。一方、AEDを使用しなかった場合の生存率は大幅に低く、社会復帰率にも大きな差が出ています。職場や施設は日中多くの人が集まる場所であり、突然の心停止が発生する可能性はゼロではありません。迅速にAEDを使える環境を整えることは、従業員や来訪者の大切な命を守ることにつながります。
3.AEDの適正な配置基準
AEDを設置する場所は、心停止発生時に約数分以内で使用できる環境が望ましいとされています。ここでは、厚生労働省のガイドラインに基づき、AEDの適正な配置基準について説明します。
3-1.AEDを効果的に設置するために考慮するべき条件
AEDを効果的に活用するためには、心停止が起こりやすい環境や救助を受けやすい状況を前提に配置場所を検討する必要があります。職場や施設などの公共の場では心停止が発生した人を目撃する可能性が高く、心室細動が検出される頻度も高いため、救命につながりやすいという特徴があります。こうした理由から、人が多く集まる場所を中心にAED設置が推奨されてきました。
設置の判断にあたっては、従業員数が多い事業所、心疾患リスクの高い年齢層が働いている職場、運動やストレスで心停止リスクが高まる業務環境など、心停止の発生頻度に関わる要因も考慮することが求められます。また、学校のように発生頻度が低くても社会的に設置が求められる施設も存在します。救急隊の到着が遅れることも想定し、迅速に救命処置を受けられる体制を整備しましょう。
表1:AED の効果的・効率的設置に当たって考慮すべきこと
- 心停止(中でも電気ショックの適応である心室細動)の発生頻度が高い(人が多い、ハイリスクな人が多い)
- 心停止のリスクがあるイベントが行われる(心臓震盪のリスクがある球場、マラソンなどリスクの高いスポ―ツが行われる競技場など)
- 救助の手がある/心停止を目撃される可能性が高い(人が多い 、視界がよい)
- 救急隊到着までに時間を要する(旅客機、遠隔地、島しょ部、山間等)
3-2.AEDを施設内に設置するときに考慮する条件
AEDを施設内に設置する際は、心停止から電気ショックまでの時間をいかに短縮するかが重要です。実際、愛知万博では約300m間隔でAEDを配置した結果、半年間の開催で4名が救命されており、迅速なアクセスが救命率向上に直結することが示されています。また、一般人が心停止を認識して119番通報に至るまでには2~3分かかるとの報告もあります。
そのため、AEDは長くても約5分以内に装着できる場所に置くことが基本で、職場では受付・エントランス付近が、学校では運動施設付近が適しています。さらに、施設内の見やすい位置に配置し、掲示やサインで場所を明示すること、全員が設置場所を正確に把握していることも必要です。施錠せず24時間利用できる状態に近づけ、温度・風雨の影響を受けにくい環境に設置しましょう。
表 3:施設内での AED の配置に当たって考慮すべきこと
- 心停止から 5 分以内に電気ショックが可能な配置
‒ 現場から片道 1 分以内の密度で配置
‒ 高層ビルなどではエレベーターや階段等の近くへの配置
‒ 広い工場などでは、AED 配置場所への通報によって、AED 管理者が現場に直行する体制、自転車やバイク等の移動手段を活用した時間短縮を考慮- 分かりやすい場所(入口付近、普段から目に入る場所、多くの人が通る場所、目立つ看板)
- 誰もがアクセスできる(カギをかけない、あるいはガードマン等、常に使用できる人がいる)
- 心停止のリスクがある場所(運動場や体育館等)の近くへの配置
- AED 配置場所の周知(施設案内図への AED 配置図の表示、エレベーター内パネルにAED 配置フロアの明示等)
- 壊れにくく管理しやすい環境への配置
4.AED設置後の注意点
AEDは設置して終わりではなく、日常点検や消耗品の交換、職員への周知と訓練を継続することで、いざという場面で使用できる状態を維持できます。ここでは、設置後に注意すべきポイントを解説します。
4-1.AEDの使用法を訓練する
救命救急の現場では一刻を争い、迷いなく操作できるかどうかが救命率を大きく左右するため、AEDの使用方法を繰り返し訓練することが不可欠です。企業や施設の担当者は、日頃から設置場所の把握や定期的な講習受講に加え、心停止が起きた場合を想定したシミュレーション訓練を実施しましょう。
また、一般の利用者に対しても、胸骨圧迫とAED操作を含む心肺蘇生法に特化した短時間の入門講習を広く提供することで、より多くの人が実践力を身につけられます。フクダ電子では、胸骨圧迫とAEDの使い方を中心に学べる独自の講習会「F'session」を実施しています。
4-2.AEDの設置情報を登録する
職場や施設のAED設置情報を日本救急医療財団や自治体が運営するAEDマップへ登録しておけば、従業員だけでなく周辺住民も位置を把握でき、緊急時に迅速な救命行動につなげられます。
特に企業や施設は人が多く集まるため、登録の有無が救命率にも影響する可能性があります。自治体が独自マップを持たない場合でも、全国AEDマップへのリンクを活用すれば情報提供が可能です。
4-3.AEDを定期的に点検する
日常点検では、インジケーターの表示と、電極パッドやバッテリの交換時期を確認します。表示ラベルに記載の使用期限が来たら、販売店に問い合わせて新しいものに交換しましょう。点検担当者の交代時には引き継ぎ漏れが起きやすいため、日頃から点検記録を残して習慣化することが大切です。
また、本体の耐用期間の確認や、廃棄・譲渡時には製造・販売会社への連絡も必要です。管理が難しい場合は、製造・販売会社のサポートサービスを活用することも検討しましょう。
まとめ
AEDは、突然の心停止から命を救う設備です。救命率はわずか数分で大きく変わるため、職場や施設に適切に配置し、迅速に取り出せる環境を整えることが求められます。施設内の動線や利用状況を踏まえて配置場所を検討し、5分以内にAEDを装着できる体制を整えましょう。
併せて、万が一のときに迷わず、かつ問題なく行動できるよう、定期的な訓練や設置情報の共有、機器の点検も欠かせません。こうした取り組みを継続することで、職場全体の安全性が高まります。まずは自社や施設内のAED設置状況を確認し、必要な環境づくりに着手しましょう。


