2026年6月8日

【役員インタビュー】
SHIROI QUALITY-医療機器メーカーとしての誇りをカタチに
フクダ電子が挑むモノづくり改革

国産第1号となる心電計を開発したフクダ電子は、1939年の創業以来、医療機器にできることは何かを常に問いながら医療機器の研究開発・製造に邁進してきました。「社会的使命に徹し、ME機器の開発を通じて、医学の進歩に寄与する」という経営理念の実現するために、付加価値生産技術力をさらに高めようと「SHIROI QUALITY」を旗印に掲げ、「モノづくり改革」に取り組んでいます。「SHIROI QUALITY」の提唱者で、プロジェクトを牽引する常務取締役の小川治男に話を聞きました。

マーケティング的研究開発によるモノづくり

―― これまでのご経歴とモノづくりに携わるうえで大切にしていることを教えてください。

小川:私はフクダ電子入社前、光学機器メーカーに38年間勤務しました。生産技術部からキャリアをスタートさせ、マイクロシステムの研究開発に携わった経験を活かしてカプセル内視鏡の開発構想をまとめました。しかし、当時は周囲から製品化の賛同は得られませんでした。通常、内視鏡は胃の検査については胃を膨らませる必要があり、大腸検査をカプセル内視鏡で行う場合は大腸に到達するまで8時間以上かかるため、どちらも非現実的だというのが理由でした。

ところが、2001年にイスラエルの企業が小腸検査用のカプセル内視鏡を発売し、世界的にビジネスをスタートさせました。小腸は全長約6~7メートルと長く、内視鏡検査は難しいとされていたこと、消化管は食道・胃・大腸の病気が大半だという“常識”にとらわれて小腸の病気の検査需要、つまりマーケットがあったことに気づかなかったのです。結局、カプセル内視鏡の技術を持ちながらも、2年以上海外の企業に遅れを取ってしまいました。この経験は、顧客価値を中心とした製品開発の重要性を痛感する出来事となりました。

この経験を活かしたのが、マーケティング本部長として取り組んだカメラ事業の事業再生でした。顧客が求めているものは何かを分析し、小型で軽量、扱いやすくおしゃれな外観のデジタル一眼カメラを発売。これが女性を中心に大ヒットしたのです。

研究開発に携わる人は、新しい技術、より高度な技術を追求する傾向がありますが、どんなに高性能かつ最新技術を搭載した製品であってもマーケットに受け入れられなければ意味がありません。研究開発はあくまでも製品を使う人のためのものであり、10年20年後を想像したバックキャスティング思考で考えることが重要だということです。私はこうした顧客価値を中心としたモノづくりを、「マーケティング的研究開発」と呼んでいます。失敗や成功を通してマーケティングと製品開発というモノづくりの両輪を学んできたことが、私の考え方のベースになっています。

コロナ禍で浮き彫りとなった課題をチャンスに変える

―― フクダ電子に入社したときの印象は?

小川:私は2020年5月にフクダ電子に入社しました。当時はコロナ禍で刻一刻と状況が変化するなか、さまざまな循環器系、呼吸器系の医療機器を扱う当社にも国からME機器等の確保の要請がありました。入院待機中の患者さんを一時的に受け入れ、酸素投与などを行う施設(酸素ステーションなど)で使用する酸素濃縮装置もしかりです。この経験は私にとって大きなインパクトとなり、改めて当社はこの国の医療を守るためになくてはならない医療機器メーカーなのだと強く感じました。

―― コロナ禍には海外からの医療機器の部品調達が困難だったとのことですが、フクダ電子ではどのような取り組みを進めていったのでしょうか?

小川:コロナ禍は日本の医療機器製造の脆弱さをあらわにしました。当社のみならず日本の医療機器メーカーの多くが製品や半導体、部品を海外から調達していたため、製造に大きな影響が出たのです。しかし、それが内製化を進め、医療機器メーカーとしてさらに成長するチャンスとなりました。
輸入品のキーパーツが調達困難になったことを機に進めた酸素濃縮装置のキーパーツの内製化では、音の大きさや故障頻度の高さといった問題点の解消にも取り組みました。プラスチック成形機やマシニングセンタを新たに導入して音が静かで睡眠が邪魔されない、故障しにくいという付加価値の高いキーパーツが製造できるようになったのです。これによって製品自体の評価も上がり、コストダウンにもつながりました。

社員たちにはエンジニアリングのプロセス、開発プロセスが身に付き、続けて空気清浄除菌脱臭装置、簡易陰圧ブースを新たに開発しました。ともにコロナ禍の医療機関では高い需要があったため、営業担当者の訪問が難しい時期にもドアオープナーの役割を果たしました。

アンメットニーズを探求して先端技術開発に取り組む

―― 最新の医療機器開発状況について教えてください。

小川:2024年10月にAI解析機能搭載心電計を発売しました。この製品は、大学との共同研究により、いわゆる“シード”から約4年をかけて開発したものです。開発の背景にあったのは、「隠れ心房細動」とも呼ばれる発作性心房細動(PAF)の発症リスク推定というアンメットニーズでした。すでに超音波検査や内視鏡検査の画像解析ではAI活用が進んでいたものの、心電計のような波形解析では国内初となるもので、AIを心電計本体に搭載してPAF のリスクを推定するだけでなく、解析にかかる時間の短縮化にも成功しました。もちろん、AIという話題性もありましたが、当社の強みを活かしながら自由な発想で開発に取り組んだことが成果につながったのだと思います。

一方で、心電計の波形を正確に読み取るソフトウェアやアルゴリズムの開発技術は、当社の医療機器メーカーとしてのステータスを確立してきた、根幹をなすものともいえます。そこにAIを活用することに対しては大きな発想の転換が必要であり、挑戦といえるものでした。創業以来の基幹製品である心電計の可能性を大きく飛躍させ、アンメットニーズの充足に向けたプロジェクトに開発陣が一丸となって取り組んだことで、実現できたのだと思います。

―― 今後も医療機器へのAI活用は進んでいくのでしょうか。

小川:AI活用は医療現場のなかでも急速に広がっていますが、それに踊らされることなく、アンメットニーズを解決する手段としてAIを活用し、先端技術開発に取り組むべきだと考えています。このような考え方をフクダ電子の技術革新の源流に置きたいと思います。また、製品開発では当然スピード感も求められます。もちろん、慎重さが必要な場面はありますが、“トライすることを恐れず、失敗してもいいからまずやってみる”ことが大切だと思います。

―― フクダ電子が現在強化している取り組みは何でしょうか?

小川:現在、重要施策として挙げているのは、①内製化推進、②サプライチェーンマネジメント(SCM)最適化、③市場品質向上、④開発プロセス最適化、⑤ソリューションビジネス推進、⑥海外事業基盤整備の6項目です。フクダ電子に来て最初に取り組んだ内製化推進で酸素濃縮装置などの成果を挙げ、社員の成功体験となったことを足がかりに、トップダウン型から自律型の組織に変えよう――という思いから、これらの施策を考えました。

なかでも最重要課題に位置付けているのが、戦略的調達、物流改革、在庫最適化を目指すSCM最適化と、製品マネジメントシステム(QMS)再構築、是正・予防措置(Collective Action & Preventive Action:CAPA)をベースにした市場品質の向上です。その活動の中心となる白井事業所(千葉県白井市)に、旗印として掲げたのが「SHIROI QUALITY」です。

フクダ電子の挑戦「SHIROI QUALITY」とは

―― 「SHIROI QUALITY」について詳しく教えてください。

小川:キーワードは、「極める」「熱量をあげる」「最高のものを作っている自負」です。医療機器は“人の命を預かる機器”であり、当社が扱っているのは超高齢化社会で需要が増す循環器、呼吸器の医療機器です。この3つのキーワードは、“人の命を預かる機器”の作り手一人ひとりに不可欠なマインドだと考えています。

「SHIROI QUALITY」が目指すのは、ひとつの大きな目標を達成するために、社員一人ひとりが自ら設定した目標に向かっていく組織の構築です。例えるなら、泳法やスピードは人によって異なり、はじめはぶつかり合うこともあるものの、徐々に協調し合って流れが作られていく“流れるプール”のような組織が理想といえるでしょう。ひとたび同じゴールに向かって流れができたプールには、決して大きな力は必要ありません。その流れに乗って人は進んでいきます。

この取り組みを推進するため、2025年から自分で作成したタスクシートの内容を実現できた人を表彰する制度も創設しました。それが企業カルチャーとして定着することこそが、“流れるプール”を作り上げるひとつの要素になるのではないかと期待しています。

―― 「SHIROI QUALITY」の取り組みで成し遂げたいことは?

小川:最高の医療機器を医療従事者に届けるという当社の使命を極め、社会に貢献することです。数ある製造業のなかでも、製品を作ることがそのまま社会貢献になるメーカーは限られます。日本に住む多くの人が一生に一度は当社の医療機器・治療機器に触れるでしょう。それはもちろん自分や家族にも当てはまります。自分や家族が受ける医療に自社の製品が使われることは医療機器メーカーの一員としての責務を実感する経験でもあり、自らの仕事に誇りを持てることでもあると思います。

社員一人ひとりが自律的に考え、掲げた厳格な品質目標に対し、高いモラルで知恵を集結して実現する――。「SHIROI QUALITY」のフィロソフィーはそこにあります。

フクダ電子が目指す未来――社会・医療への貢献

―― 事業の範囲を治療機器の開発、製造にも広げたのはなぜですか?

小川:当社は心電計に始まり、血圧脈波検査装置、生体情報モニタなどの検査機器などの製造・販売を長年事業の中心に据えてきました。これらの医療機器は、身体の状態をより正確に把握するうえで重要なものですが、人の命を直接救うものではありません。私は、医療機器メーカーのミッションとは、「検査して疾病を早期発見し、適切な治療を提供する」ことだと考えています。そのため、治療機器の技術開発に取り組むことは、当社の使命のひとつだと思います。

2025年に発売した自動体外式除細動器(AED)は自社初の国産モデルです。AEDは日本でも普及が進み、公共施設などに設置されていますが、実はその多くが海外製です。私たちは「いつでも・どこでも・だれでも使えるAED」をコンセプトに、日本人が使いやすい設計を追求しました。

―― 今後の展望と、人材育成に対する思いを聞かせてください。

小川:近年は、フロントローディング開発プロセスに取り組み、開発効率と品質の向上を図ってきました。さらに、今後はイノベーション・マーケティングも取り入れていきたいと考えています。マーケティングの世界においてもイノベーションが進むいま、従来の慣習にとらわれず新しいアイデアや手法にチャレンジしなければ企業として成長することはできません。

こうした新たな取り組みの推進にはイノベーション“人財”が必要です。それは、物事を鋭く観察し、ちょっとした変化にも疑問を持ち、いろいろな技術・デバイスと関連付けして新たな価値を創造できること、アイデアを実現するための強いネットワーク力を持ち、リスクを恐れず楽しんで試行錯誤できる人だと思います。そんなイノベーション“人財”を育てることが私の使命であり、フクダ電子に対してできる最大の貢献だと考えています。

小川治男(おがわ はるお)
フクダ電子株式会社常務取締役技術統括
1982年4月オリンパス株式会社入社。2011年執行役員、翌年同社常務執行役員、オリンパスイメージング株式会社代表取締役社長に就任。オリンパス株式会社取締役常務執行役員技術開発部門長(CRDO)、同社取締役専務執行役員技術統括役員(CTO)などを歴任し、2020年5月フクダ電子株式会社入社。開発本部副本部長、開発本部長、品質保証本部長などを経て、現職。

※本記事の情報は2026年1月現在のものです。

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