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ペースメーカーの植込み手術

ペースメーカーによる治療を開始するためには、植込み手術が必要となります。
入院から手術、手術に伴う合併症の予防方法、
退院後の日常生活における注意点を十分理解しておくことが大切です。

ペースメーカーを植込む前に

ペースメーカーの植込み手術は、入院から退院までに行われる検査や処置をはじめ、服用する薬、食事や入浴、歩行開始時期などの標準的な入院スケジュール表(クリニカルパス)にもとづいて行われるのが一般的です。

医療機関によっても異なりますが、1週間から10日程度の入院となる場合が多く、手術後の経過に問題がなければ、手術翌日から食事やトイレ移動などは可能です。

一般的には次のような流れとなっています。

手術
前日

入院

心電図モニターをつける、入院生活と手術の説明、同意書の提出 など

手術
当日

手術前

手術中に血栓ができるのを防ぐために医療用の弾圧ストッキングをはく、手術着に着替える、尿に管を入れる、絶食、点滴開始 など

手術後

心電図検査を行う、点滴開始、合併症予防のために安静を保つ など

手術後

手術
翌日

身体を起こしての食事、トイレ移動可能、清拭(身体を拭く)、医師による診察、傷の消毒、点滴など =経過観察=(1週間~10日)
ペースメーカーのチェック、傷の状態の確認、退院後の生活指導 など

退院

入院が決まったら、担当医師や看護師などから、入院に必要な手続きや当日持参する書類、入院生活に必要な物品などについて説明があります。医療機関によって患者さんが持参する必要がある物品や持参に制限がある物品もあるため、入院前日までに確認しておきましょう。

植込み手術前の検査

ペースメーカーの植込みが必要かどうかを調べるために、胸部X線撮影や心電図の検査、心臓超音波検査、心臓カテーテル検査、血液検査などの検査を必要に応じて行うことがあります。

患者さんによって検査する項目が違いますので、詳しくは医師にお尋ねください。

植込み手術前に行う主な検査

検査名 検査によってわかること
胸部X線撮影 心臓のサイズや変化や肺のうっ血の有無や程度などを調べる
心電図・ホルダー心電図・運動負荷心電図検査 心臓の電気的活動状態を調べる
心臓カテーテル検査 心臓の大きさ、形、動き、ポンプ機能などを調べるために、体の中に管を入れる。また、心臓の電気的活動状態を調べることもある
血液検査 心臓以外のほかの臓器の機能に異常が無いかどうか、感染症の有無などを採血して調べる

運動負荷心電図検査

心臓カテーテル検査

ペースメーカー植込み手術

ペースメーカーの本体は、前胸部に植込むのが一般的です。そのために、左右いずれかの鎖骨下部分の皮膚の下に、ペースメーカー本体を収めるためのポケットを作ります。

次に腕から心臓に血液が戻る静脈(一般的には鎖骨下静脈または腋窩静脈)を使って、ペースメーカー本体と心臓との間を電気的につなぐためのリード(導線)を挿入します。このとき、シングルチャンバペースメーカーの場合は1本のリードを右心房または右心室のいずれか一方へ留置し、デュアルチャンバペースメーカーでは2本のリードを右心房・右心室にそれぞれ1本ずつ留置します(ただし、デュアルチャンバペースメーカーでも1本のリードで心房・心室の両方を監視して心室のみに電気信号の刺激を送るタイプの場合、1本のリードを右心室のみに留置します)。

心臓の収縮のタイミングのズレを補正して、心臓本来のポンプ機能を取り戻すために最適な場所にリードを入れるためにペースメーカー植込み手術ではX線透視装置を用います。医師はX線透視装置に映し出されるリードの位置情報や心臓の電気的な情報などをもとに、リードを最適な位置に設置します。

ペースメーカー本体を収めるためのポケット作成や、リードを心臓の中に入れるために、皮膚を数センチ切ったり、注射針を刺したりする必要があります。このため、あらかじめ痛みを抑えるための麻酔をします。

心臓内に留置するリードの位置が決まったら、ペースメーカーとリードを接続して前胸部のポケットに収めます。リードとペースメーカー本体を接続した後、正常に作動しているかどうか確認し、皮膚を縫い合わせて消毒を行い、手術は終了です。手術時間はおよそ1~2時間です。

シングルチャンバ植込み図

デュアルチャンバ植込み図

外から見た様子

手術中・手術後の合併症

ペースメーカーの植込み手術による代表的な合併症は以下のものがあります。ただし、いずれの合併症もその発生率は極めて低いものとなっています。

主な手術中の合併症

合併症 原因
血胸 静脈を切開してその切れ目からリードを挿入する場合、まれに静脈や動脈を刺してしまい、その出血が胸のなかに溜まってしまうことがある
気胸 静脈を切開してその切れ目からリード線を挿入する場合、ごくまれに肺を刺してしまうことがあり、刺した箇所から漏れた空気が胸のなかに溜まることがある
リード穿孔 リード線が静脈内を進む際に、まれに血管壁または心臓の壁を貫通してしまうことがある

主な手術後の合併症

手術後に起こる可能性がある合併症に、リード線の移動・離脱・損傷・断線があります。

正常
(先端のずれなし)

異常
(先端のずれあり)

先端のずれのイメージ

リードの先端は、抜けたり動いたりすることのないように、心臓の組織に絡みつきやすい形状をしています。しかし、まれに手術終了後にリードの先端が心臓内の組織から抜け落ちたり、動いてしまったりすることがあります。また、手術から長時間経過する中で、リードに大きな負担がかかり、損傷や断線をしてしまうことがあります。

このような状態になると、ペースメーカーからの電気刺激が心臓に適切に伝わらなかったり、ペースメーカーシステムが上手く動作しなくなる恐れがあります。

手術後から退院まで

手術後は、縫合した部分の傷を回復させ、植えこんだリードを早く心臓内部で安定させるために、安静にしましょう。

一般的に、植えこんだリードが確実に安定するまでには1~2ヶ月かかるといわれていますが、リードの種類やリードの位置などによって個人差があります。入院期間も患者さんの容態によって異なります。

手術翌日からは、感染症、創部の出血、皮下の血腫、またはリードの移動などがないかを観察するために、採血や胸部レントゲン撮影などによる検査のほか、心電図モニターを装着して心臓の活動状態を綿密に確認します。

退院後もリードの位置が安定するまでの1~2ヶ月は、ペースメーカーを植込んだ側の上腕を激しく動かしたり、重い物を持つといった動作は控えてください。

また、抜糸後も縫合した部分の傷が回復するまでは感染症を引き起こす恐れがあります。引っ搔いたり不潔にしたりすることのないように注意しましょう。

退院後の定期検査

手術が無事に終わり、ペースメーカー治療を開始すると、徐脈性不整脈の症状は改善します。しかし、患者さんお健康状態やペースメーカーの作動状況、電池の残量、リード(導線)の異常の有無などを確認するために、定期的に検査を受ける必要があります。

1 ペースメーカーの定期検査

定期検査は、医療機関や患者さんの状態によって異なりますが、3ヶ月~半年に1度程度、手術を受けた医療機関の外来診療で行います。普段は地域の医療機関を受診し、ペースメーカー植込み手術のみを遠方の医療機関で受けた場合には、地域の医療機関で定期検査を行うのが一般的です。また、ペースメーカーには遠隔診断機能が備わっているものもあります。遠隔診断機能では、患者さんの心臓の状態とペースメーカーの状態を定期的に暗号化されたデータとして自動送信します。これにより、担当医師は受診した情報をもとに患者さんの心臓の状態を病院等から定期的に確信することができ、ペースメーカーの設定が最適な状態になっているのか、もしくは設定を調整する必要があるのかどうかを判断するための補助的な役割を果たします。

ペースメーカーは、本体に内蔵された電池で動いています。定期検査では、ペースメーカーが正常に作動しているか、電池の残量はどのくらいかなどを確認します。また、患者さんの体調に合わせてペースメーカーの調整を行うこともあります。

2 電池やリードの交換

電池の残量が少なくなったら、交換が必要です。本体の電池交換のみであれば、1週間程度と、最初の植込み手術に比べて手術時間は短くて済みます。同様に、リードの状態も定期的に確認して、電極位置がずれていたり、リードが破損していたりする場合には交換します。

定期検査は、患者さんの状態をペースメーカー治療の状況を確認するために必要なものです。また、電池やリードの交換は、患者さんの徐脈性不整脈の治療を継続するうえで非常に重要なものです。必ず医師の指示通り受診してください