野球の試合中や練習中に、選手が突然倒れるという事態は決して珍しくありません。特に胸部への衝撃による心臓震盪(しんとう)は、子どもに起きやすいリスクとして知られており、迅速な救命対応が求められます。心停止後はできる限り短時間でのAED使用が救命率を高めるため、野球をする環境に備えておくことの意義は大きいです。
当記事では、AEDで救命できた事例、野球場にAEDが必要な理由、そして実際に倒れた人が出たときの救命手順を順に解説します。
1.野球で心停止した子どもをAEDで救命できた事例
野球では、打球が胸に当たる事故が重大な事態につながることがあります。実際に、高校野球の試合中に起きた心臓震盪(しんとう)の事例では、現場にAEDがあり、すぐに救命処置が行われたことで命が救われました。
春の大会で、投手だった16歳の選手が相手打者の打球を胸に受け、そのままマウンド上に倒れました。当初は肩に当たったようにも見え、周囲もただちに心停止を疑えなかったとされますが、けいれんや呼吸停止が確認され、状況は一変しました。観戦していた父親が異変を察知して救急要請を行い、周囲は心肺蘇生と人工呼吸を開始します。さらに、観客席にいた救命処置の知識を持つ専門家が加わり、学校に卒業生が寄贈していたAEDで電気ショックを実施した結果、選手の心拍は再開しました。搬送先の医師は、心肺蘇生とAEDのどちらか一方が欠けていても最悪の結果を避けられなかった可能性があると述べたとされます。
選手はその後、約10日間の入院と検査を経て、約1か月後には後遺症なく競技に復帰できました。この経験をきっかけに、関係者は少年野球チームでもAEDを購入して携行し、保護者への救命講習受講、周辺のAEDマップ作成など安全対策を強めるようになりました。この事例は、AEDの設置だけでなく、その場で使える人がいること、そして日頃から救命行動を学んでおくことの重要性を示しています。
参考:有限会社マルナカ防災「ピッチャー返しが胸を直撃。心臓震盪を起こした高校球児の命を救ったのは、卒業生が寄贈した AEDでした。」
2.野球場にAEDが必要になる理由
野球場にAEDが必要とされる背景には、スポーツ中の突然死、打球による心臓震盪(しんとう)、そして心停止直後の迅速な救命の必要性があります。ここでは、野球場にAEDが必要になる理由を順に解説します。
2-1.18歳以下の突然死の約4割がスポーツ関連のため
一般的に心臓突然死は高齢になるほど増加する傾向にありますが、スポーツ関連の突然死は若者層に多いことが分かっています。特に、18歳以下の突然死の約4割はスポーツ関連とされており、若い世代でも運動中の心停止は決して珍しくありません。特に小中学校では、心停止が起こる場所としてグラウンドの割合が高く、野球場のような運動の現場でも発生しうると考えられます。
また、心停止を起こした子どもの中には、事前に心臓の異常を指摘されていなかったケースも少なくありません。つまり、見た目には健康そうな子どもでも突然倒れる可能性があり、事前の見極めには限界があります。学校検診だけで危険を完全に見抜くことは難しい以上、野球場でも「起こるかもしれない」という前提で備える必要があります。
2-2.野球ボールが胸に当たると心臓震盪(しんとう)を起こす可能性があるため
野球ボールが胸に当たった際に心臓震盪(しんとう)を起こす可能性があることも、野球場にAEDが必要とされる理由です。心臓震盪(しんとう)とは、胸の心臓付近に衝撃が加わった瞬間のタイミングによって、健康な子どもや若い人でも心室細動を起こし、心停止に至ることがある状態を指します。特に胸壁がやわらかい若年者では起こりやすいとされ、持病のない子どもにも起こりうる点が見過ごせません。
アメリカの報告でも野球ボールによる事例が多く、日本でも小学生から高校生までの発生例が確認されています。競技中だけでなく遊びの場面でも起こりえます。見た目に大きな外傷がなくても数秒後に倒れる場合があるため、単なる打撲と決めつけず、野球場ではAEDを含めた救命体制を整えておくことが重要です。
2-3.心停止からできる限り短時間で救命措置が必要になるため
野球場にAEDが必要なのは、心停止が起きたとき、救命措置をできる限り早く始める必要があるためです。消防庁の令和7年版資料では、令和6年中に一般市民が目撃した心原性心肺機能停止傷病者27,769人のうち、一般市民がAEDで除細動を行った1,449人では、1か月後生存者が777人で生存率53.6%、社会復帰者は643人で44.4%でした。
この数字は、救急隊の到着を待つだけでなく、その場にいる人がすぐ心肺蘇生やAEDを使えるかどうかが結果に大きく関わることを示しています。野球場では打球事故などで突然心停止が起こる可能性があるため、短時間で対応できるよう、現場にAEDを備えておくことが重要です。
3.野球の試合で倒れた人が出たときの救命の手順
野球の試合で倒れた人が出た場合は、安全確認、助けを呼ぶ、胸骨圧迫、AEDの使用、救急隊への引き継ぎまでの流れを落ち着いて進めることが大切です。ここでは、一般的な救命の手順を順に解説します。
3-1.周囲の安全確認をする
倒れた人を見つけたときは、すぐに駆け寄るのではなく、まず周囲の安全を確認することが大切です。野球の試合では、打球やバットが近くにある、用具が散乱している、選手や観客が集まって動きにくいといった状況があり、救助する側まで危険にさらされることがあります。安全が確保できていないまま近づくと、負傷者が増えるおそれもあります。
まずは危険がないかを落ち着いて見極め、必要に応じて周囲の人を下がらせ、十分な空間を確保してから次の行動に進みましょう。救命では、救助者自身の安全を守ることが最初の基本です。
3-2.反応がないことを確認して助けを呼ぶ
周囲の安全を確認したら、倒れた人の肩を軽くたたきながら大きな声で呼びかけ、反応があるかを確かめます。反応がない場合はもちろん、反応の有無に迷う場合も、その場で様子を見続けるのではなく、すぐに119番通報とAEDの手配につなげることが重要です。
まず周囲に「誰か来てください」と助けを求め、協力者が来たら「119番通報をお願いします」「AEDを持ってきてください」と具体的に依頼します。野球の試合では人が多く集まるため、周囲の大人やスタッフに役割を明確に伝えることが、その後の救命をスムーズに進める上で大切です。
3-3.胸骨圧迫を30回行う
反応がなく、普段通りの呼吸が確認できない場合は、胸骨圧迫を始めます。倒れている人をあお向けに寝かせ、胸の真ん中に手のひらの付け根を当て、もう一方の手を重ねて肘を伸ばし、真上から強く押します。成人では胸が約5cm沈む程度、小児では胸の厚さの約3分の1が目安です。1分間に100~120回のテンポで、30回連続して行います。人工呼吸ができる場合は、胸骨圧迫を30回した後、人工呼吸を2回(1回につき1秒息を吹き込む)行いましょう。
圧迫した後は胸がしっかり元に戻るように力を抜き、押す動きをできるだけ途切れさせないことが大切です。野球場では周囲が慌ただしくなりやすいものの、まずは胸骨圧迫を確実に続けることが、命をつなぐための重要な行動になります。
3-4.AEDを使用する
AEDが届いたら、すぐに電源を入れ、音声案内に従って操作します。多くの機種はふたを開けると自動で電源が入り、電極パッドを取り出して胸に貼るよう案内されます。電極パッドはイラストで示された位置に、衣服を開いて肌へ直接しっかり貼り付けます。胸が汗でぬれている場合は拭き取り、貼り薬がある場合ははがしてから装着しましょう。
AEDが心電図を解析している間は、倒れている人の体に誰も触れないよう周囲にも声をかけます。電気ショックが必要と判断されると、機械が音声で知らせるので、周囲の人が離れていることを確認した上でショックボタンを押しましょう。慌てやすい場面だからこそ、迷わず音声案内通りに進めることが大切です。
3-5.救急車が到着するまで胸骨圧迫を続ける
胸骨圧迫は、救急車が到着するまで、できるだけ途切れさせずに続けることが大切です。胸骨圧迫には、止まってしまった心臓の代わりに脳や心臓へ血液を送り続ける役割があり、途中で長く止まると救命の可能性が下がります。圧迫する人は体力を消耗しやすいため、周囲に協力できる人がいる場合は、声を掛け合いながら交代して続けるとよいでしょう。
野球場のように人が集まる場所では、1人で抱え込まず、周囲の大人やスタッフが役割を分担しながら圧迫をつなぐことが重要です。苦しくても数秒でやめてしまわず、救急隊へ引き継ぐまで続ける意識を持つことが、命を守る行動につながります。
まとめ
野球では、打球による心臓震盪(しんとう)などによって、健康な子どもでも突然心停止に至ることがあります。そのため、野球場にはAEDを備え、倒れた際の救命手順を理解しておくことが大切です。特に心停止後は、できる限り短時間で胸骨圧迫やAEDの使用につなげることが重要になります。
いざというときに落ち着いて対応できるよう、胸骨圧迫やAEDの使い方をAED講習会で学んでおくと安心です。フクダ電子のAED講習会「F'session」では、胸骨圧迫とAEDの使い方など、一次救命の流れをしっかりと学べます。
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