妊婦が突然倒れた場面に直面したとき、「AED(自動体外式除細動器)を使ってよいのか」「胎児に影響はないのか」と迷い、行動をためらってしまう方は少なくありません。しかし、判断が遅れるほど母親だけでなく胎児の命にも影響する可能性があります。
当記事では、妊婦にAEDを使用してよいとされる理由や妊婦に対する救命手順、妊婦特有の注意点を分かりやすく解説します。正しい知識を知っておくことで、緊急時にも落ち着いて対応でき、母子双方の救命につなげる判断ができるでしょう。
1.妊婦にAEDを使用しても大丈夫?
妊婦が倒れて心肺停止に陥った場合でも、AEDは使用することが求められます。電気ショックが胎児へ影響するのではないかと心配されがちですが、心室細動や無脈性心室頻拍を起こしている場合、AEDによる除細動が有効とされています。心肺停止が続けば胎児への酸素供給も滞るため、母親の蘇生を最優先することが、結果として母子双方の命を守る行動になると言えます。
AEDには心電図を解析する診断機能があり、電気ショックが不要な状態では作動しない仕組みです。妊娠中に起こり得る血流の変化や血栓による失神など、除細動が不要な場合は音声で指示されます。一方、電気ショックが必要と判断された場合は、命の危険が差し迫った状態であるため、ためらわずにAEDの指示に従って対応することが重要です。
AEDの使用における胎児への影響については、これまで明確な有害事例の報告はないとされています。電極パッドは母親の胸部に装着されるため、胎児の心臓とは距離がある位置です。実際に約300Jの除細動でも胎児に影響が見られなかった報告もあります。胎児への影響を懸念してAEDを使用しない判断は、母子双方の救命機会を失うことにつながりかねないと言えるでしょう。
2.妊婦へAEDを使った救命を行う手順
妊娠している方にAEDを用いた救命処置を行う場合でも、基本的な流れは一般的な心肺蘇生法と大きく変わりません。周囲の安全確認や反応の確認、胸骨圧迫を行いながら、必要に応じてAEDを使用します。ただし、妊婦特有の体の状態を踏まえ、姿勢や対応に配慮することが求められます。以下では、妊婦へAEDを使用する際の具体的な手順を解説します。
2-1.周囲の安全と反応を確認する
妊婦が倒れている場面では、まず周囲の状況を確認し、落ち着いて反応の有無を確かめましょう。二次被害を防ぐため、車の往来や転倒の危険がないかを確認してから近づくようにします。
次に、肩を軽くたたきながら「大丈夫ですか」と声をかけ、動きや返事があるかを確認します。反応があれば、そのまま様子を観察し、体調の変化に注意します。反応がない、または判断に迷う場合は、大声で周囲に応援を求めて119番通報を行い、救急車とAEDの手配を依頼します。
2-2.呼吸および心拍を確認する
妊婦の反応が確認できない場合は、呼吸と心拍があるかを約10秒以内で確認します。倒れている妊婦を仰向けにし、胸やおなかの動きを観察して正常な呼吸があるか、同時に頸動脈に触れて確実な拍動があるかを確かめます。
呼吸や脈拍のどちらかが確認できた場合は、気道を確保し、状態に応じて対応します。正常な呼吸が見られない場合には人工呼吸を行います。妊娠後期が疑われる場合は、おなかで血管が圧迫されるのを防ぐため、体を左側が下になるように少し傾ける姿勢を取るようにします。
2-3.胸骨圧迫と人工呼吸を行う
呼吸や確実な脈拍が確認できない、または判断に迷う場合は、ただちに胸骨圧迫を開始します。胸の中央にある胸骨の下半分に手を重ね、胸が約5cm沈む強さで、1分間に約100~120回のテンポで押します。押した後はしっかり力を抜き、胸が元の位置に戻るよう意識しながら、できるだけ中断せず続けましょう。息をしているように見えても、ゆっくりあえぐような呼吸やけいれんがある場合は心停止の可能性があるため、迷わず胸骨圧迫を行います。
人工呼吸の準備ができたら、胸骨圧迫約30回に対して人工呼吸約2回の割合で続けます。人工呼吸が難しい場合は、胸骨圧迫のみを継続します。人手に余裕があるときは、おなかを手で支えて左側へ持ち上げるなど、妊娠子宮による血管の圧迫を軽減する対応を加えますが、このときも胸骨圧迫を止めないことが大切です。
2-4.AEDを装着する
AEDが到着したら、胸骨圧迫を続けながら速やかに装着します。妊婦であっても使用方法は一般の場合と変わらず、AEDの音声や表示に従って操作を進めます。
まず電源を入れると音声案内が始まるため、落ち着いて指示を確認します。胸部が汗などで濡れている場合は軽く拭き取り、電極パッドが水に濡れないよう気を付けながら貼ります。電極パッドの貼付位置は、右鎖骨下(鎖骨の下で胸骨の右)と、左わき腹(わきの下から約5~8cm下、乳頭の斜め下)の2か所です。電極パッドやAED本体に描かれた図を参考にするとよいでしょう。電極パッドを貼る作業中も、可能であれば胸骨圧迫を中断せずに続けます。
電極パッドの装着後、AEDが自動的に心電図を解析します。解析の間は胸骨圧迫を止め、倒れている妊婦から離れます。電気ショックが必要と判断された場合は音声で案内があり、周囲の人に離れるよう声をかけた上でショックボタンを押します。ショック後は、指示を待たずに胸骨圧迫を再開し、AEDの判断に従って対応を続けます。
2-5.救急隊が到着するまで心肺蘇生を続ける
救急隊が到着するまで、心肺蘇生は中断せずに続けます。胸骨圧迫は「強く、速く、絶え間なく」を意識し、AEDが示す約2分ごとの解析や指示に従って対応します。
途中で反応が戻ったり、普段通りの呼吸や目的のある動きが見られたりした場合は、無理に胸骨圧迫を続けず、状態を観察します。救急隊が到着したら、これまでに行った処置や倒れた状況などを伝えましょう。
3.妊婦へ救命を行うときの注意点
妊婦へ救命措置を行う際は、基本的な心肺蘇生やAEDの手順を守りつつ、妊娠に伴う身体的な特徴を踏まえた配慮が必要です。ここでは、重要な注意点を説明します。
●妊娠後期の方の場合、体を左側が下になるように傾ける
妊娠後期では、仰向けの姿勢のままでいると、大きくなった子宮が腹部の大きな血管を圧迫し、心臓に戻る血液量が減少するおそれがあります。そのため、心肺蘇生中は体を左側が下になるように少し傾けることが望まれます。背中の右側にタオルやクッションを入れて支えると、左側を下にした体勢を自然に保てるでしょう。ただし、この対応は胸骨圧迫を中断したり遅らせたりしない範囲で行うことが求められます。
●ブラジャーのワイヤーなどの金属部分が電極パッドに触れないようにする
AEDの電極パッドは素肌に直接貼り付けますが、ブラジャーを必ず外す必要はありません。ただし、ワイヤーや金属製の留め具、ネックレスなどが電極パッドに触れると、電気ショックの効果が弱まったり、やけどの原因になったりする可能性があります。金属部分はできるだけ外すか、電極パッドから離した位置にずらし、適切に装着できるよう配慮しましょう。
また、電極パッドの装着後は、可能な範囲で上着やタオルなどをかけ、妊婦の下着や胸部が周囲から見えないよう配慮するとよいでしょう。
まとめ
妊婦が心肺停止に陥った場合でもAEDの使用は必要であり、母親を早く蘇生させることは、母子双方の救命率を高めることにつながります。救命の基本手順は一般の場合と変わらず、胸骨圧迫とAEDを中断せずに行うことが重要です。その上で、妊娠後期には体勢に配慮する、電極パッドに金属が触れないよう注意するなど、妊婦特有のポイントを押さえる必要があります。正しい知識を持つことで、緊急時にも落ち着いて行動できるでしょう。
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